「カリオストロ」は本来のルパンじゃない(モンキー・パンチ)

THE ルパン三世 FILES
ルパン三世全記録 ~増補改訂版~
モンキー・パンチ「ルパン三世」初監督の弁 より抜粋
(インタビュー時期は「ルパン三世 DEAD OR ALIVE」公開直前あたり?)

「カリオストロ」は本来のルパンじゃない


※「M・P」はモンキー・パンチ

「カリオストロの城」の面白さ

-『ルパン三世』は劇画からはじまって、テレビアニメーションになり、スペシャルになり、劇場アニメーションになりといろいろな形になりました。

M・P:『ルパン三世』は1967年からだから来年で30年になるんです。テレビアニメーションがスタートしたのは71年だから今年で25年。考えてみると長いね。

-劇場アニメーションもいろいろな方が作られましたが、その中では宮崎駿さんの「カリオストロの城」の人気が高いですね。

M・P:宮崎ファンは凄いですね。僕はインターネットをやっているけど、未だにあの人の影響は強いですね。アメリカでもヨーロッパでも『ルパン三世』を知っている人はほとんどが『カリオストロの城』からですからね。物語の面白さもそうですが、その凄さは、僕とは違う『ルパン三世』を出した感じがします。僕の原作の場合は毒があって、女性に対する優しさはあるけれども、ああいう優しさはないんですね。わりとクール。それに対して宮崎さんは宮崎さん流のルパンを出した。ただ問題は「カリオストロの城」以後、作る人がみんな宮崎さんに引っ張られている。だからルパンが優しく優しくなって、女の子が倒れたら手を貸して起こしてあげるようなルパンばかりで、もういい加減にしてくれと言いたくなる。

-そういう理由で今回はご自分で監督もされるんですか?

M・P:そうです。本来のルパンはそうじゃないんだからと。あれは宮崎さん流のルパンであって、それは宮崎さんにしか描けないもの、宮崎さんの優しさが出たものでしょうが、僕はそうではなくて、女性が転んでもそれに手を貸して起こしてあげるルパンではないんだということを今回は出していますね。

-今までとは違った、本来のルパンを出そうと?

M・P:違いを出そうというよりも、僕が原作で考えたそのままのルパンを出したい。絵コンテを見ても、本当にルパンが優しいんだよね。もういいかげんやんなっちゃうの。だからね、今回は絵コンテマンと喧嘩状態でしたよ。

-ずいぶん直された?

M・P:直しましたね。例えば「爆発が起きたらルパンは女性を抱いて逃げる」というシーン。こんなのはいらない、女性をほっぽりだしても自分は逃げると。そういう冷たさみたいなものをルパンはもっているのだ、と。戦うときも女の子をかばって戦うなんてしないでいい、と。

-その他のねらいは何ですか?

M・P:ハードボイルドタッチを全面に出したい。それとゲーム的な面白さを出したいと思っています。でも思い通りに出来ているかどうかは、僕自身も心配なところがあるんです。やっぱり初めて監督をやって嫌というほど分かったけど、映画作りは共同作業なんですよね。要するに僕の場合は漫画を描いて、『ルパン三世』だけでも30年になるわけだから、とにかく漫画の面白さを出したいわけです。でも演出からするとそれでは駄目で、つまり漫画の面白さではなく映画の面白さを出すべきだと言う。僕はそうじゃなくて、映画の面白さは十分主張しているわけだから、それ以上 に漫画の面白さを出したい。だから上がってきた絵コンテを僕が直すと、これでは映画にならないとクレームがつく。僕は映画にならなくていい、漫画にしようと言う。だからフィルムをつなぎ合わせでどういうのが出来上がるのか、半分は楽しみでもあるけど、半分は不安。果して漫画の面白さが出ているかなっていうね。そうかと言って喧嘩ばかりしていたら、現場の人だって嫌気がさしてやめたってなったら困るし、そのへんが難しいですね。

-今回監督としてはそういう中で、どの程度までやったんですか?

M・P:もちろん全体です。まず脚本は僕がストーリーを途中まで書いて、その後は口頭で脚本家に伝えた。だから出だしは僕の感じだけど途中から違うなと、シナリオ会議を五回くらいやった。要するに漫画と映画の大きな違いは、漫画の場合は分からなかったら読み直すことが出来るけど、映画はそれが出来ないこと。見ていて途中で分からなくなってもそのまま見続けざるを得ないから、それを分かりやすくしないといけない。そうすると僕の漫画の良さが出なくなってくる。ある程度の分かりずらさは僕の漫画の個性、特長でもあるわけだから、分かりずらいところは見た人が判断してくれればいいと思うんだけど、それでは映画にならないと言われる。例えば「2001年宇宙の旅」のストーリーが全部分かるかって聞くの。分からないところがあるから何回見ても面白いので、そういう映画もあるとね。でも、それでは見る側に不親切だとかいうことで、意見が全然違うんだ。結構分かりにくいところもあるから、そういう意味ではシリーズの中に新風は吹き込んでいると思います。それとゲームの要素がものすごく楽しめますよ。

-原作者としては宮崎さんの『カリオストロの城』を否定しているわけではないですね。

M・P:ええ、もちろん否定していません。あれは宮崎さんにしか出せないものですからね。料理で言えば五人のキャラクターは素材で、その素材だけ変わらなければどう料理しても構いませんよと預けた形ですから。だからそれは宮崎さんしか出来ないのに、他の演出家が自分の好みではないのにやろうとしているから無理がある。その人が持っている個性で動かしてくれればいいんだけど、宮崎さんのに引きずられている。ただ、今アニメーションをやろうとしている人は、宮崎さんの影響が凄く大きいんですね。だからそういう人達が絵コンテを描いてくるから、これじゃ駄目だと言ってしまう。ほんと、怒鳴り合いですね。僕も腹を立てて途中で降りると言った。ここまできたら絶対に降ろされないだろうと計算してはいたけどね(笑)。どの世界でもあることでしょうが、すったもんだの末ようやく絵コンテが上がり、あとは僕の意図を汲んでやってくれればいいなと思っている状態ですね。でも先日何分か見ましたが、結構いいですよ。僕自身も満足してるし、プロデューサーも今までのとは違うねって言っていた。大人っぽくなったし、ハードボイルドになっていた。


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記事作成日時:2011年

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